ピアノ上達法

腱鞘炎にならないための毎日のケアとピアノ奏法【ピアニストが教える身体メンテナンス】

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はじめに

ピアノを弾く人なら誰もが一度は耳にしたことがある「腱鞘炎」

膨大な練習や負荷のかかる奏法で手を酷使することで炎症が起こり、ひどい場合は痛さで手を動かせなくなってしまうほど。

腱鞘炎になるとピアノ演奏を楽しめなくなってしまいますので、絶対に避けたいトラブルの一つです。

この記事では、ピアノを弾く人が腱鞘炎にならないための毎日のケアとピアノ奏法をお届けします。

腱鞘炎で悩まれている方はもちろん、ピアノを弾く人は誰もが知っておくと良い腱鞘炎の知識と身体のメンテナンス方法をお伝えします。


もくじ

  • 腱鞘炎とは
  • そもそも、なぜ腱鞘炎になるのか
  • 腱鞘炎にならないためにやるべき5つのこと
  • 腱鞘炎とさよならできるピアノ奏法
  • 万が一、腱鞘炎になってしまった時には
  • おわりに
  • オススメの書籍紹介



腱鞘炎とは

意外と知られていないことですが、指の中には筋肉はありません。実は、私たちが指を動かすとき、手のひらと前腕にある筋肉を使っています。それらの筋肉は手首や指の関節をまたいで指先まで「腱」というヒモで繋がっており、そのヒモがずれないように主に各関節付近で通しているパイプのようなものが「腱鞘」というものです。

手の構造ー腱・腱鞘・筋肉手の構造ー腱・腱鞘・筋肉

 

指を動かすとき、「腱」と「腱鞘」がこすれ合いますが、「腱鞘」の内部には潤滑油のような物質(滑液)が分泌されておりますので、「腱」と「腱鞘」の摩擦は最小限に抑えられます。

しかし、過度な回数や負荷がかかると、いくら滑液があろうとも、「腱」と「腱鞘」に炎症が引き起こされてしまいます。

特に「腱鞘」は常に負荷がかかっていますので炎症を起こしやすく、その炎症の事を「腱鞘炎」と呼ぶことが主となっています。

つまり、「腱鞘炎」は主に「腱」と「腱鞘」の過度な摩擦により「腱鞘」に起こる炎症の事を示します。



そもそも、なぜ腱鞘炎になるのか

私たちがピアノを弾くとき、手のひらと前腕の筋肉を伸縮させることで指を動かしているのですが、そのとき「腱鞘」の中を「腱」が行ったり来たりしています。ピアノを弾く動作は「腱」が「腱鞘」の中を行ったり来たりする数が非常に多く、「腱」と「腱鞘」がこすれ合う頻度が並大抵ではありませんので、「腱鞘炎」を引き起こすリスクはどうしても高くなってしまいます。

また、不自然な奏法で弾いていたり過度な力みや筋肉が緊張・硬直していると、「腱鞘」にかかる負荷は急増してしまいます。

「腱鞘」はデリケートな組織ですので、不自然な負荷がかかるとすぐに炎症を起こし、「痛み」という危険信号を発します。

最初はわずかな「痛み」でも、炎症は起こっているので無視しないことが大切です。

「痛み」を感じたらすぐに手を使うのをやめ、十分な静養を取ることが大切です。

身体の警告(痛み)を無視してさらに手を酷使してしまうと炎症はひどくなり、当然治るのも遅くなります。



腱鞘炎にならないためにやるべき5つのこと

1:「腱鞘」に負荷をかけない奏法を見つける

そもそも、腱鞘炎になるには原因がありますので、その原因を解消しない限りは腱鞘炎を繰り返すことになります。

「腱鞘炎とは腱と腱鞘が過度にこすれ合い、炎症が起きること」ですが、腱を動かすのは筋肉ですので、まずは正しい筋肉の使い方を身につけることが大切です。

筋肉の使い方は人それぞれ癖がありますので、初めからピアノを弾くのに適した動きを出来る人もいますし、苦労する人もいます。

腱鞘に負荷がかかるのは大きく分けて「①:腱と腱鞘の摩擦回数の多さ」と「②:腱と腱鞘が強い力でこすれ合う」の2つに分けられます。

①の場合、練習時間を制限したり、適度な休憩を必ず取るようにして抑えられますが、②の場合は筋肉の使い方、つまりピアノ奏法を見直さない限り「腱鞘炎とさよなら」できません。

具体的には、

(1)鍵盤の底を押し付けるのをやめる

(2)動きに関係のない筋肉を緩める

(3)筋肉を偏りなく使い、腱鞘へ偏った力がかかるのを避ける

の3つを意識しましょう。

 

(1)について、

ピアノは鍵盤を弾いた後に負荷をかけても意味のない楽器です。

ピアノの音が鳴る仕組みは、

■鍵盤を下ろすと内部のアクションを通じてハンマーが跳ね上がり、

⬇︎

■その後ハンマーはアクションを離れ弦にぶつかり弦を振動させ、

⬇︎

■弦の振動が響板へ伝わり増振され、

⬇︎

■響板の振動が空気に伝わり、

⬇︎

■空気を振動させて音となります。

こうしてピアノの音が鳴る仕組みを理解すると、ピアノの音が鳴った時には、鍵盤へいくら力をかけても意味がないことがわかります。

鍵盤の底を押し付けるのは全く意味がないどころか、自分の身体へ負荷をかけるだけのことで悪影響しかありません。

自分の手が不安定にならず、鍵盤が上がらない程度のバランスで鍵盤に触れる習慣を身につけましょう。

 

(2)について、

手・腕の内部には筋肉・筋・腱・血管・骨など、たくさんの組織が存在します。

イメージとしては、細長いお鍋で様々な太さ硬さの麺(ラーメン・うどん・ソーメン・そば・パスタ・マカロニなど)と骨を茹でているような状態です。

どれもをいっぺんに引っ張り出そうとしたら、めちゃくちゃに絡まってしまい取り出すのが大変なイメージをしてください。

人間の体はものすごく精巧に作られていますが、いっぺんに筋肉を動かそうとしたら、筋肉同士で喧嘩を始めます。

人間の筋肉は基本的に「拮抗」しております。

「拮抗」を簡単に説明すると、筋肉2つで1つのペアを作り、一方の筋肉が緊張している間、相方の筋肉は弛緩するということです。曲げる担当の筋肉、伸ばす担当の筋肉がどちらも緊張して引っ張りあったら、身体は動けなくなってしまいますよね。

先ほどの鍋の麺たちと同じで、人間の筋肉もいっぺんに動かせる筋肉には限りがあります。

ピアノを弾くとき、弾きたい音を出す動作と関係のない筋肉が緊張していると、身体は動けなくなってしまいますし、そのような状況の中無理やりに音を出していくと、腱鞘への負荷は大きくなってしまいます。

必要な筋肉・必要のない筋肉をしっかりと見極められるように、自分の身体・動きをよく観察してみてください。

 

(3)について、

先天的な影響も大きいのですが、身体の感覚を研ぎ澄まし、指がスムーズに動く筋肉の使い方を見つけます。

他の筋肉や関節とのバランスを感じながら、腱が腱鞘の中をスムーズに通過するイメージを持って、体のフォームを整えることがポイントです。

ハノンの教科書

ピアノを弾く時の運動面に特化した教本「ハノン」は、正しい動き・奏法を見つける時に活用できます。

「ハノンの教科書」では各曲の解説をしておりますので、ご活用ください。

▶︎「ハノンの教科書」を見てみる

「ハノン」の教科書「ハノン」の教科書

 

2:意識的に休憩とストレッチを行う

正しい筋肉の動きをしていても、どうしても腱と腱鞘への負荷はかかります。

練習中にこまめに手を休憩させ、腱と腱鞘を休ませてあげることは大切です。

また、筋肉に加え腱と腱鞘にも柔軟性を持たせるよう、ストレッチを行うと良いです。

患部を冷やすアイシングは炎症を抑える効果もありますが、やはり炎症を起こさない気配りと、自然完治力といった面から、アイシングに依存するのは避けましょう。

3:日頃の血行を良くする

身体は基本的に温めると良いものです。

加齢とともに腱や腱鞘も硬くなり、怪我のリスクも高まリマす。

意識的に体温を上げるように、日頃の血行を良くすることは腱鞘炎予防にも大切です。

4:人体構造の理解

筋肉の動きを理解したり、身体をどのように動かしたら自然なのかイメージするためにも、人体構造の理解は欠かせません。

簡潔にまとまった本を一冊読んでいる人といない人では大きな差となってきますので、何か一冊読んておくことをおすすめします。

近年、各楽器専門に身体に関する本は出ています。

ピアノを弾く人向けの本ですと、

ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと

 

よくわかるピアニストからだ理論~解剖学的アプローチで理想の音を手に入れる~

が特に有名です。

より専門的な理解を求める方には、医学書となってしまいますが、

手 その機能と解剖

が医学書としては鉄板です。

5:不快感を感じたらすぐにストップ

ちょっとした痛みや不快感は腱鞘炎の初期症状です。そのままピアノを弾くのを続けても、酷くなってピアノが弾けなくなってしまいますので、早いうちのピアノを弾くのをやめることが大切です。

腱鞘炎がひどくなると、最悪の場合「手術」となることもあります。

損害は最小限に抑えましょう。



腱鞘炎とさよならできるピアノ奏法

ピアノスペース管理人の私も、10代の頃は腱鞘炎に悩まされましが、現在は腱鞘炎とは無縁の生活をしております。

もちろん10代の頃に比べ日々ピアノを弾く時間は多いですし、通常加齢とともに腱や腱鞘は10代の頃に比べて硬くなるでしょうが、ストレッチや毎日のケアによって10代よりも柔らかい腱を持っていると思います。

ただ、このようになれるまでにはたくさんの失敗と改善があり、時に1年近くも手の痛みに悩まされ続けた時期もありました。

先の「腱鞘炎にならないためにやるべき5つのこと」でも述べましたが、腱鞘炎になる原因には、腱鞘炎になるピアノの弾き方をしていることがあげられます。

そもそも腱鞘炎になるピアノの弾き方を治さない限りは、何度でも腱鞘炎になるのは当たり前のことですが、意外と見落とされていますので、ここで「腱鞘炎とさよならできるピアノ奏法」をしっかりと確認しておきましょう。

腱鞘炎とさよならできるピアノ奏法

(1)鍵盤の底を過度に押し付けない

(2)身体の各パーツの正しい可動域を知る

(3)大きな筋肉から順に使う

(4)速い動きの割合を減らす

(1)について、

先の「腱鞘炎にならないためにやるべき5つのこと」でも述べました。鍵盤の底を押し込むことは絶対に避けましょう。

 

(2)について、

身体の各パーツの可動域を知らなかったり勘違いしていると、故障や怪我にもつながります。一度ご自分の感覚と目を使って、それぞれのパーツがどのように動くか確認してみましょう。

 

(3)について、

手の中の小さな筋肉は細かい動きは得意ですが、大きな力を生み出すことはできません。手と腕は肩甲骨から支え、腕の動きは背中で作る意識を持ちましょう。(2)の知識が身につけば、身体をどのパーツをどのように動かせば良いのか見えてきます。

 

(4)について、

速い動きは腱や腱鞘にも負荷をかけますので、必要のない動きはやめましょう。具体的には、次の鍵盤を弾くまでの間、一箇所に止まっているのではなく、前の音が鳴っている間に次の音を鳴らす準備を余裕を持って行うことがポイントです。

これらポイントをまとめたピアノ奏法を私は「循環奏法」と呼んでおりますが、「循環奏法」に関してnoteでまとめてありますので、よろしければ一読ください。

 

 



万が一、腱鞘炎になってしまった時には

万が一、腱鞘炎になってしまった時には、まずは安静にすることが大切です。しかし、ひどい痛みや、1週間経っても痛みが引かない時は診療を受けましょう。

また、患部の血行を良くすることも大切です。



おわりに

この記事はピアノを弾く方へ向けて書いておりますが、手は生活の中でとてもたくさん使うものですから、ピアノ以外の生活も見直す必要も時に出てきます。

今日、仕事やプライベートの中でもパソコンやスマートフォンを長時間使ったりしますし、思わぬところで腱鞘炎を引き起こす可能性も潜んでおります。

一度腱鞘炎になると、治るまでに時間もかかりますし、ピアノを弾くのも生活を営むのも不都合となります。

ピアノを弾く方は日頃から手の使い方に気をつけて、両手という2つの宝物を大切にケアして、ピアノライフを楽しんでください。

また、「ピアノスペース7分ラジオ」は手を使わずに耳からピアノに関する情報を得られますので、こちらもご活用ください。

▶︎「ピアノスペース7分ラジオ」を聴いてみる

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この記事が少しでも、ピアノを弾く皆様のお役に立てることを願っております。

オススメの書籍紹介

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